退職金功労加算部分の支払い方
退職金制度改革を行なう企業が増えています。基本給との分離、支給金額の見直し、積み立て方法の変更は定石です。しかし、それだけで良いのでしょうか。退職のときに払うお金は、本来、退職金と功労金との二つの意味を持っているはずです。それを退職金一本で支払うことがそもそもおかしいのではないでしょうか。私は退職金と功労金の分離を提案したいと思います。退職金は、勤続年数、役職在任年数等に応じて自動的に決まる計算式で支払います。一方、功労金は在籍全期間を総合査定して支払うようにしてはどうでしょうか。功績によって増減する仕組みとするのです。そのためには長期の査定項目を予め示しすことが大切です。当社としてのいい仕事、社員は何をなすべきかを明確にし、それを成し遂げることによって功労金を増やすことができるとしたら、社員にとっても経営者にとっても納得がいく退職金制度になるのではないでしょうか。何十年に一度の改定です。労使双方にとって悔いのない改革としたいものです。
● なぜ、退職金を払うときになると惜しい気になるのか?
たとえ、10人に1人くらいの割合であっても、なぜ、こいつにこんなに退職金を払わなければいけないのかー!という気持ちになったことがある経営者は案外多いのではないでしょうか。経営者としては、退職金を払うときには、腕を組んで来し方を振り返り、社員ごとに金額を決めたいというのが本音だと思います。なぜなら、経営者にとっての退職金は、功労金であり、恩賞金であるからです。
退職金制度を設けるか設けないか、これは自由です。しかし、一度、退職金制度を設けたら、それは労働契約の内容となり、賃金と同じ労働債務としての性質を持ってしまいます。支払わなければ、労基法違反(賃金不払)となり、債務不履行となります。「計算式どおりでは、どうしても納得がいかない!」と言っても、もう後の祭りなのです。
● 退職金は「勤続の奨励」と「功労への報奨」である
そもそも何のために退職するときにお金を支給するのでしょうか。それは、社員の勤続を奨励し、その功労を報奨するためです。もともと退職金と功労金との二つの意味があるのです。
まずは、「勤続の奨励」、人材を定着させるために行なうものです。例えば、製造業では現場社員の熟練技能、技術力が付加価値の源泉です。卸売業では営業マンが築く人脈が商売の基盤となります。いずれも一朝一夕にはいかないものです。コツコツと地道に長年月を掛けてこそ構築できるものです。
世はまさに成果主義花盛りです。退職金は長期決済(30年40年先に支払う賞与)であるため、成果主義、時価主義に反すると言われています。大企業の中には退職金を廃止し、前払いとする企業もあります。しかし、私は、退職金は熟練技能、人脈構築など長期の企業基盤形成を蔑ろにしないためのバランス装置だと思っています。長く勤めれば退職金が増えるから、辞めるなよーとメッセージを送ることの意味はまだ完全には失われていないのです。
次に、「功労への報奨」である。社長という機関車が走っている。ふと振り返ると後ろを一生懸命走ってついてきていた人たちがいる。創業期から苦楽を共にした人、大きな売上を占める商品の技術開発をした人、新規事業を軌道に乗せた人、一緒に働いて楽しかった人などなど忠誠心が高く、一緒に当社を作ってきた社員たちです。経営者としてはこの人たちが会社を去るときにはその功績を称え、労いたい。それが功労金です。そして、現役社員に当社の論功行賞と、かくあるべしという模範を示したいものです。
● 誰にでも同じ程度の退職金が出てしまうことが問題なのだ
退職金の問題点は誰にでも同じ水準の退職金が出ることです。
退職金といえば、基本給比例方式が一般的です。この方式の場合、退職時の基本給が同じであれば、役職者でも一般社員でも全く同じ退職金になってしまいます。基本給が年功的に運用された結果、仕事の実績や役職など会社に対する貢献度の序列どおりになっていないからです。
この問題は、基本給比例方式を「役職加算付き定額方式」に変更するだけで、大幅に改善されます。退職金と基本給との連動を断ち、貢献度に応じた定額を支給する方式です。私はこの方式が中小企業にとって最も優れた退職金制度であると考えています。
この役職加算付き定額方式をもとに、功労金加算を行うことを提案します。一般社員では55歳で息も絶え絶えになった人と最後まで頑張った人とでは、何らかの差をつけたい。役職者でも実力で部長になった人とついでに部長となった人とではその仕事の実績、貢献度にはおのずと差があるはずだからです。
● 功労金が機能していない
退職金規程の中に功労金を規定している企業は多いですね。しかし、大半の企業では全く支払ったことがないのではないでしょうか。経営者としては社員ごとの功績に応じた功労金を払いたいはずです。それが出来なくなったのは、基本給比例方式で算定されるベースの退職金が高くなり過ぎたからではないでしょうか。経営者としては十分すぎる金額を払うわけだから、なぜこれ以上払わなきゃならんのだ、という感覚があるからだと思います。ごく例外的にこいつだけは何とかしたいという場合(創業メンバーの退職など)に、計算式を超えて支払えるようにするお飾りのような規定となってしまっています。経営者として本来行ないたいはずの論功行賞である功労金のハードルは、退職金の高騰のために滅多に越えられなくなり、退職金一本で支払うことが当たり前になってしまったのです。
● 退職金改革に希望の光を
最近の退職金の改定は、退職金水準の引き下げとなる場合が多い。会社の存続を考えるとやむをえない苦渋の選択です。しかし、社員にとっての退職金は、老後(退職後)の生活資金(軍資金)です。ただ下がるだけでは納得しがたいものです。なんらかの希望の光を残すべきではないでしょうか。希望の光になり得るのが功労金です。
功労金は退職者のためだけではなく、現役社員のためにあります。当社にとっての功労とは何かを意識させ、社員が長期的な視点にたって、会社の発展と自らの成長を考える。退職者に報いるだけでなく、現役社員に良い影響を与える、そこにこそ意味があると私は思います。何をすれば功労金を増せるか、当社にとっての功労とは何かが示されていれば、少しは理解を得やすいのではないでしょうか。
● 当社にとっての功労 その① 現在の功労の積み重ね
当社にとっての功労には、大きく二つあると思います。ひとつめは、現在の功労とその積み重ねです。経営目標を理解し、実績挙げている社員の功労は大きい。毎期の賞与で査定し、厚く処遇します。そして仕事の実績をコンスタントに挙げ続けることができれば、昇給し、役職に登用することとなります。
例えば、「彼は、今期、不良率の低減のための改善提案を行い、A製品の歩留を向上させた」これは賞与に反映させます。この成績を繰り返して、「彼は、コンスタントに改善活動を行い、製品歩留の向上させている、今後も出来るだろう」ということになれば、賃金に反映させていきます。あるいは昇格や役職への登用を検討する材料にもします。
そして、在籍期間を通じて歩留向上に貢献してきたのならば、退職時には「彼は、在職期間全体を通じて改善活動を行い、製品歩留の向上させてきた。継続こそ力なりである。」こうなれば功労金を弾みたい。つまり、賞与の査定をしっかりやって功労金の査定に繋げていくのです。
<賞与査定の累積項目例 製造業の場合>
① 職務能力の継続的向上
在籍期間を通じて、常に新しい技術を習得してきたか?多能工となっていたか?必要な資格を取ってきたか?課長以上の管理職は部下の職務能力を引き上げてきたか?
② 品質向上への継続的取り組み
在籍期間を通じて、改善提案を行なってきたか?過去に犯したミスを何度も繰り返していなかったか?課長以上の管理職は作業標準を整備し、職場に定着させてきたか?
③ 生産性向上への継続的取り組み
在籍期間を通じて、生産性を継続的に向上してきたか?課長以上の管理職は能率阻害要因の原因解決を行なってきたか?
④ 安全・5Sへの継続的取り組み
在籍期間を通じて、安全活動に積極的に参加してきたか?無事故・無災害であったか?5S活動に積極的に参加してきたか? 課長以上の管理職は安全・5Sを職場に定着させてきたか?
● 当社にとっての功労 その② 退職者が企業の基盤に残していくもの
もう一つの功労は、退職者が企業の基盤に残していくものです。優秀な後継者、後輩などの人材、技能・技術の伝承、新規事業、新商品開発などによる利益への貢献、そしてその社員が職場に与えてきた良い影響力などです。会社の発展と自分の成長を重ねて考えることが出来る人が残していくものです。ただ時間を売って賃金を得ればいいと考えていた人、途中でぶら下がりだした人には決して残せないものです。これらはその社員がいなくなるときにはじめてハッキリとみえてくると思います。賞与や賃金では評価しきれない、長期の成果です。したがって、退職時にあらためて査定を行なう必要があります。
<長期成果査定項目例 製造業の場合>
① 人材育成
在籍期間を通じて、部下や後輩を一人前に育てたか?部下や後輩の面倒をよく見ていたか?同僚への協力も惜しまなかったか?課長以上の管理職は有能な後継者を育成したか?
② 技能・技術の伝承
在籍期間中に、仕事のノウハウを部下・後輩に伝授・体得させたか?暗黙知を作業標準に整備してきたか?課長以上の管理職は作業標準を職場に定着させてきたか?
③ 企業基盤の拡充
在籍期間中に、新規事業、事業構造転換、新商品・新サービス開発、発明・新案、顧客拡大など当社の利益を将来にわたって向上させる企業基盤の拡充への業績貢献があったか?
④ 良い影響力
在籍期間を通じて、勤務姿勢が良かったか?会社を良くするために主体的に行動してきたか?ムードメーカーとして職場内で良い影響を与えてきたか?チームワークを重視していたか?課長以上の管理職は経営者意識を持ち、社長の分身となっていたか?
● 功労金の金額設定方法
功労金は本来ゼロから青天井です。しかし、これでは不安定過ぎる。やはり、頑張ればいくらもらえるのかを示しておかなければ社員の納得と行動を引き出すことは難しいでしょう。新しい功労金は標準額をはっきりしておくことがポイントだと思います。そして、標準額に対して一定の割合、例えば1.0~2.0倍(査定倍率)の範囲で増減することとするのです。
役職加算付き退職金制度を事例に具体的に説明します。
<役職加算付き退職金制度>

これを退職金と功労金に分離します。分割する比率は6:4位が良いのではないかと思います。功労金の割合と査定倍率によって、変動幅は大きくも小さくも設定できます。私は、一般社員で+100万円、課長クラスで+150万円、部長クラスで+200万円位となるようにしてみてはどうかと考えています。退職のときに数十万円ではインパクトに乏しいからです。会社の基盤に足跡を残していったら、100万円退職金が増えるぞ。途中でぶら下がらずに、最後まで頑張ろうではないか。と言いたいのです。
退職金は次のようになります。これは計算式に基づいて支払っていきます。一般社員であれば入社10年目までは6万円/年、11年目からは12万円/年、30年で打ち止めとしこれを基本退職金とします。課長になれば在任期間中は6万円/年を加算、部長になれば同12万円/年を加算します。
<退職金部分>

功労金は次のようになります。こちらは退職時の査定によって査定倍率を掛け、変動させます。尚、標準功労金は退職金同様毎年一定金額を仮額として積み上げる。一般社員であれば入社10年目までは4万円/年、11年目からは8万円/年、30年で打ち止めとします。課長になれば在任期間中は4万円/年を加算、部長になれば同8万円/年を加算します。
<功労金部分>

退職金と功労金の合計は次の通りです。
<退職金部分と功労金部分の合計>

● 退職金規程のあり方
退職金規程で退職金と功労金の性質を明確に区分しておくことが必要です。退職金規程の前文に次のように規定してはどうでしょうか。
1.退職金は、社員の退職後の生活の安定に資することを目的に支給する。但し、残る社員・取引先などに迷惑を掛ける辞め方をした場合は、一定の範囲で減額、または不支給となることがある。
2.功労金は、社員の在籍全期間の貢献および望ましい行動などを退職時に評価し、恩賞として支給する。加算についてはあくまで「仮額」として行うものであり、仮額が既得の権利となるものではない。最終的な金額は退職時の査定によって、確定するものとする。なお、退職金の減額事由に該当する場合は原則として支給しない。
● 退職時査定をどう行うか
まず、社員には在籍期間を通じて企業の基盤に残してほしいものを予め示しておくことが大切です。社員は自分が何をすればよいかがわかり、それに向けて努力することが出来るからです。退職者が企業の基盤に残していくものと過去の査定の積み上げとを総合的に評価し、功労金の査定倍率を決めるのです。
予め何も示さず、40年の最後になって、「後ろからバッサリ」評価では、紛争になりかねません。全く査定の記録が残っていない場合は導入が難しいでしょう。退職時の査定1回だけで在籍全期間を評価するのは余りにも乱暴です。退職する社員を納得させるには、過去の評価結果を証拠として示す必要があるでしょう。大切なのは賞与や賃金の評価制度を整備し、そのうえで功労金と連動させることだと思います。少なくとも5年乃至10年の査定を参考にする必要があります。評価制度のない会社は、経過措置を設けて5年くらい掛けて、退職金と功労金を分離してみてはいかがでしょうか。その間に、評価を積み上げて、5年後から実施します。
毎期の査定のフィードバックによって、将来の功労金がどうなるかがわかるような労使関係が望ましいと思います。退職時に功労金がつかないような人は、とっくに淘汰され、自己都合退職しているような雰囲気が会社にあることが理想的です。功労金を割り増して支払っても惜しくない、そんな社員ばかりの会社となれば、社長としても社長冥利に尽きるのではないでしょうか。当社の社員はいいやつらばかりだーといえる、そんな社長がうらやましいですね。


